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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1710号 判決

被告人

橫山淸五郞

主文

原判決を破棄する

本件を岐阜簡易裁判所に差戻す

理由

記録に基き審按するに原審第一回公判調書の記載に依れば原審檢察官は本件犯罪の証拠として劈頭に、

一、司法警察員並に檢察事務官作成の被告人に対する供述調書

の取調べを請求したところ裁判所は右請求通り其の取調べを爲したことが認められる。依つて右供述調書の記載を看るに右は何れも本件犯行に対する被告人の自白を記載したものであるから刑事訴訟法第三百一條により犯罪事実に関する他の証拠が取調べられた後で無ければ之を取調べることができないものである。此点に関し刑事訴訟規則第百九十三條第一項に「檢察官はまず事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調を請求しなければならない」と規定せられてあるから前記刑事訴訟法第三百一條の趣旨と矛盾する樣であるが、同條の規定は要するに裁判官に於て事件に就き予断を生ずることを防止せんとした趣旨に外ならないから右両規定を綜合考察すると檢察官に於ては被告人の自白調書たると否とを問はず総て一括して取調を請求することができるが裁判所に於て之を取調べる場合には尠くとも犯罪事実に関する他の証拠の一を取調べた後でなければ被告人の自白調書は之を取調べることができないものと解釈しなければならない。

然るに原審は此手続を履践せず、檢察官の請求通り劈頭に被告人の自白調書を取調べたのであるから明に採証法則に違反するものであつて而も右の違反は判決に影響すべき性質のものであるから此点に於て原判決は破棄を免れない。

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